東大が推薦入試を導入するそうです。


なんとまぁ…!!驚嘆!


それだけは絶対無いだろうと踏んでいましたが、これも時代の波なのでしょうか。

私には迷走しているようにしか思えません。


そもそも推薦入試自体、たいていは学生本来の学力・偏差値よりもいくらかランクが上の大学に入りやすい仕組みです。
それは制度本来の趣旨ではないのでしょうが、自分自身の学生時代の記憶を掘り起こしてみても、推薦入試ははっきりいって、結果的に受験生に「お得」な制度になっているのが現状です。

だからといって、私は推薦入試制度自体に否定的な訳ではありません。


⚫私立大学の場合⚫

私立大学はそれぞれに独自の校風があり、それに馴染む学生がほしかったり、逆に多様性を重視しているため入試の形式を多く設けてバラエティーに富んだ学生を求めたりと、その運営方針はまちまちです。そこも含めてその大学の校風で、他との差別化につながるのでしょう。

また現実問題、大学経営もビジネスですから、少しでも早い時期に「お客さま」を確保しておきたいのは当然の欲求です。(推薦入試はたいてい秋に行われます)

こうして大学側のニーズと、ガリガリ受験勉強せずに早く進路を決めたい受験生のニーズが合致するわけです。


⚫東大は国立大学⚫

一方で、東大は法人化されたとはいえ国の教育機関です。
そして最高学府です。

東大が推薦入試を導入するというニュースをみて、まず「何がしたいんだろう?」と思いました。

考えてもみてください、
東大が最高学府であるということは、現行の一般入試制度で入ってくるのは、雑な言い方をすれば日本でもっとも優秀だろうと推測される学生たちです。(もちろん、自分の意思や家庭の事情で地元の大学に進む優秀な学生さんもいますが、いまは一般入試と推薦入試との比較ですので、そこには言及しません。)

東大は、推薦入試制度で、いったいどんな学生がとりたいんでしょうか?よっぽどこれまでとは違う学生がほしいのでしょうか?
要項を読めば「国際感覚」や「理解力」などあちこちでよく見かける単語が頻発していました。

・推薦入試合格に必要とされるセンター試験の得点の目安は900点中720点。これは、一般的には高得点ですが、東大を一般入試で受ける学生であれば平均的な点数です。
そもそも東大はセンター試験の点数をあまり重視しておらず、二次試験の倍率を3倍にするためのいわゆる足切りの際と、圧縮した点数を二次試験の点数に加えて総合判断をする際に使用する程度です。
なぜならセンター試験は、東大に合格するレベルの受験生にとっては“標準的”すぎるレベルで差がつきにくいのです。
また、二次試験の準備に必要とされる勉強とはレベルも量も次元が違いすぎます。



学科試験はそんな“標準的”なレベルしか課さず、あとは語学力や、これまでの執筆論文、留学経験、社会奉仕経験などを参考にし、試験会場での論文やディスカッション、面接で判断するとなっています。(法学部の場合)

・また、高校での成績は「各校上位5%以内」が目安とされています。一学年300人として15位以内…よほどの有名進学校でなければ、東大を目指す学生の順位としては緩いくらいでしょう。


結局、どんな学生がとりたいのか!?正直あまり見えてきません。
仮に大学関係者に
「一般入試で受けて合格するほどの学力はないけど、その他の面で秀でたところがある学生をとりたいのでしょうか?
それじゃ結局「お得な」入試制度になって、学生の学力は担保されないのでは?
最高学府が、学力を妥協してどうするんですか?」
という疑問をぶつけたら、

大学は「いやそんなことはない、合格者は学力的にも一般入試の学生と変わらないレベルで、さらに個性も持ってるんだ!」と主張するかもしれません。


しかしそんな人はわざわざ推薦入試なぞ受けなくても、一般入試で合格します。

つまり、東大の推薦入試で予想される合格者は、
1・一般入試でも受かったであろうけど、時期もはやいし保険のつもりでうけたら合格した人
2・一般入試じゃ受かりっこなくて、せいぜいセンター対策やって、あとは課外活動にせいを出していた人


1なら現行制度のままでいいし、
2なら学生の学力の質が下がります。


東大が
「これからはダイバーシティの時代だー!」
と声高に掲げるならそれも良いでしょう。

しかしそんなことよりも、法人化したとはいえ由緒ある国立大学の代表として、本質を大切にしてほしいのです。大学入試は就職試験とは違うのですから。

どんな人も公平に、バックグラウンド関係なく、鉛筆一本で、己の学力のみで一発勝負のふるいにかけられる、という方針を貫いた方がよほど筋が通っているのではないでしょうか。

また最高学府として、第一に求めるのは「学力」であるという凛とした姿勢を保つべきです。


いまひとつ、腑に落ちる「哲学」を感じさせてくれない制度改編。
推薦入試制度が「肩書きを手に入れるお得な抜け道」化されないよう、くれぐれも厳格な実施をお願いしたい。

最高学府の威厳と格式を決して損なわないでください。