今回は、世間で「ハイスペ」と言われるところの、いわゆる高学歴・高収入の男たちのジレンマについて紹介したい。

 
私は東京大学法学部を卒業した。そこに集う同級生は皆、受験勉強を勝ち抜いてきた人ばかりだ。

でも、お堅い話しかしないガリ勉ばかりということは無く、男女を問わず、個性の強い面白い友人がたくさんできた。飲んでバカ騒ぎをしたり、女どうし徹夜で恋バナという名のゲストークをしたり、サークル仲間男女7人で花火大会にいくなんていうちょっとした「オレンジデイズ」的体験もできて、人間関係に恵まれた大学時代を送ったと思っている。

 
そんなわけで、私には東京に男友達が多い。文系学部とはいえ、男女比がアンバランスだったから。そして一緒にバカをやっていたはずの彼らは、自然と世間でいうところの「ハイスペ男」になっていく。そんな彼らとたまに飲んで話すと、面白い現象が見えてくる。

 

<■なかなか訪れない「彼女との青春」

さきほど「ガリ勉ばかりではない」とはいったものの、基本的に皆まじめだ。受験生時代から勉強も恋愛も部活も遊びもぜーんぶバランスよく楽しんでいました!なんていう爽やかリア充はせいぜい2~3割で、残りの7~8割は人一倍勉強に労力を割いてきている。

無事入学してからも、大学内のアンバランスな男女比のため自然と男子はあぶれてしまい、学内で奪い合いになる女子をうまくつかまえるか、もしくは手際よく女子大とのインカレサークルに入って彼女を見つけるかしないと、「彼女アリ」の青春は送れない。恋愛慣れしてない奥手な男子にとって、それは意外とハードルが高い。

かといって、大学外での合コンに励みまくるかと言えば、もちろんそういう人もいるが、多くの人が将来のために勉強する。特に、公務員や弁護士を目指す人は、放課後や休日に予備校に通う。受験勉強は大学に入っても続くのだ。

 

■卒業後、突然訪れる価値の高騰

そんな大学生活を送った彼らが、卒業して就職する。するとどうだろう、キャリア官僚や有名企業の肩書に、合コンの話が次から次へと舞い込む。

大学時代にほどよく遊んで恋愛もしていた部類の男子は、世間のそんな反応にも割と冷静。社会人生活が落ち着きだした3年目くらいに、学生時代からの彼女と結婚する人もちらほら出てくる。

一方で、そんな「引く手あまた」状態に慣れていない部類の男子たちは、少々舞い上がる。華やかとは言えない大学生活をおくっていたはずが、合コンで可愛いOLさんに「すごーい!さすが物知りですね♡」なんてキラキラ笑顔で言われると悪い気はしない。当たり前だ。私だって舞い上がるだろう。

学生時代よりはお金もある、女の子の反応も悪くない。少しずつ、彼らの生活が変化し始める。


■アラサーでバブル並みのモテ期が来る

とはいえ、卒業直後の数年は、なんだかんだいって有名私大卒の男子の方がモテる。イメージもおしゃれだし、実際話が面白くて、女性の扱いが上手な人が多い。
そのうえ東大生は根本がまじめなので、仕事に打ち込み過ぎて恋愛そっちのけの人も多い。

 
ところがアラサーになってくると、東大卒男子たちも仕事で中堅どころになってきて、少し余裕が出てくる。

ちなみにこのタイミングで社会人恋愛市場にぽーんと投げ出されるのが、弁護士一同だ。彼らはロースクールを出てさらに司法修習を受けるので、社会人としてのスタートが数年遅い。かつての同級生が華々しく社会人デビューするのを横目で見ながら、一番長くコツコツ勉強してきた組である。彼らはアラサーで、「学生」からいきなり「先生」と呼ばれる社会人生活スタートをむかえる。昨今の司法制度改革で弁護士ももはや「おいしい」仕事ではない。就職口が無くてやむなく独立したり、安い報酬でこきつかわれたり……。でも、世間の大多数の若い女性はそんな内情はよく知らない。弁護士ときけば「なんとなくいい感じ」と思う人が大半だ。

 男子の状況はこんな感じ。

ここでいったん、女性の方に視点を移してみよう。世間の女子の多くはアラサーになると少し男性観がかわる。「かっこよくて~、素敵なお店知ってて~」と言っていた時代を終え、多くの女性が「できれば高収入で、まじめで、親にも紹介しやすい人が良いな!」と言い出す。
 

すると、何が起こるか。

東大卒男子、人生最大のモテ期到来。
完全にバブル並みの価値高騰だ。


美女揃いで有名な企業や、CAさん、ありとあらゆる魅惑的な合コンの話が持ちかけられ、ちやほやされ、完全に売り手市場である。

もちろんこの時期も冷静に受け止め、「これぞ」と思った女性と真剣に付き合い、結婚していく人もいる。

 
が、舞い上がる人も多いのだ。

彼女がいても、「他にもいるかも」となかなか決められないと言う。
1回の合コンで何人つかまえられるか、その研究に予断のないやつも。

ある弁護士男子は、キープしている女性が5人いるらしい。……あきれるを通り越して感心する。


■そんな彼らを襲うジレンマ

ただ、ひたすら舞い上がっているだけではないらしい。激務で疲れて帰った夜、友人の結婚式に参列した日、「やっぱり自分も結婚したい。落ち着きたい。」と思うのだそうだ。(一部独身主義者は除く)

そして飲みながら私に問う。

「やっぱりさ、良い子から結婚していくのかなぁ?同窓会すると結構みんな人妻じゃん。」

「いや、結婚自体はご縁だから、良い子からってことは無いでしょ。実際あの子もあの子も綺麗で性格いいけど独身じゃん。タイミングはそれぞれだよ。」

「そっか。そうだよね。」

「うん、でも、男女ともに単純に独身の数は減るよ。

そうなんだよ!やばい、迷っているうちに選択肢が減っていく……!」

まさに、このジレンマに陥るらしい。

まだまだモテるし、選べる側だから年貢をおさめたくない。でも、そうこうしているうちに独身女性自体が減る。

 
■彼らが結婚を決めるとき

そんな「どうしよっかな」状態から1抜け、2抜けしていく人にだいたい共通しているきっかけは、結婚相手に決めた女性の何かに「感動した」ことのようだ。
もちろんゴールインの現実的なきっかけとして、転勤や転職、留学、はたまた彼女の妊娠というケースは多い。ただ、たいていそこに至るまでのどこかの時点で「この人だ」と決めるきっかけとして、「感動」「人生観のすり合わせ」が存在している。
「モテることに気付いてチャラチャラ遊んでたけど、今の嫁さんに出会った瞬間、全部やめた。」と話す男友達は、お相手の品の良いたたずまい、気立てのよさに感動したという。

彼女の洞察力に感動したという人もいれば、困難に直面したとき一緒に乗り越えてくれたたくましさに感動したという人もいる。他にも、忙しい自分の仕事を理解し支えてくれる姿に感動した、彼女の才能に感動しインスパイアされた、など。そして惚れ込んだ相手と人生観が一致すれば、それぞれのペースで結婚していく。
もちろん圧倒的な美しさ、という人も。(ただしこのパターンは人生観を擦り合わせていないケースが多く、友人内で「大丈夫か!?」説が浮上するけど)


「ちやほや」に慣れ、虚しさを感じ始めると、最後の決め手はどうやら「感動」らしい。
一時的に舞い上がっても結局は心動かされた人と地に足をつける。

条件重視の婚活市場のからさわぎ、そしてそれに乗じた男達のにわかチャラチャラ恋愛界から、心ある一途な恋愛の世界へ戻ってくる彼らを私は全力で歓迎する。
 
もし煮え切らないハイスペアラサー男子の扱いに困っている女性がいたら、小手先のテクニックでなく、どうかそれぞれの持ち味の「感動」で、彼らの心に刺さる決め手を作ってあげてほしい。
そして、スペックでなく、丸裸の彼らそのものを愛してほしい。
余計なお世話かもしれないが、スペックと美しさを交換するような結婚の行く末は、書く気もしないほどの泥仕合だ。