「#読み終わった本リスト」参加者のみなさんのアドベントカレンダーに、ひょんなことから参加させていただくことになりました。
http://www.adventar.org/calendars/933 

今年読んで印象に残った本をお互い紹介しましょう、という企画です。
私の担当が本日、12月9日。
今年も実用書から小説、漫画までいろいろ読みましたが、いざ選ぶとなると迷いますね。甲乙つけがたいものが沢山。
でも印象に残ったものを選んでみたら、不思議と共通点がみえました。

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まず、最近読んで泣けたものを一冊。
きらきらひかる (新潮文庫)
江國 香織
新潮社
1994-05-30



クリハラさん(@kurit3)から譲っていただきました.

主人公の夫婦は一見どこにでもいる「ふつう」の2人ですが、実はそれぞれ「脛に傷持つ者同士」の結婚だったという設定。妻の笑子は情緒不安定でアル中、夫の睦月は女性を愛せずボーイフレンド持ち。お互い結婚を急き立てられる状況にあったため、事情を承知のうえで結婚します。当然二人は男女の仲ではないものの、互いを大切に思っていて、唯一の望みはいまのこの生活が変わらず続くこと。
でも二人の願いもむなしく、それぞれの事情はお互いの両親の知るところになり、睦月の恋人をも巻き込んだ荒波に襲われます。


とにかくこの夫婦、不器用です。相手の幸せを祈りながらの行為が裏目に出て、かえって傷つけたり、自分自身を追いつめたり。それがもどかしくもあり、愛おしくもあり……。
笑子の情緒不安定は欠点でありながらも、感受性の強さ、必死さ、まっすぐさと常に表裏一体で、特に後半、睦月の幸せのために痛々しいほど奔走する姿に泣きました。
ストーリーは最終的に予想外の着地をしますが、読後「ふつう」ってなに?と静かに、でも激しくこちらの心を揺さぶってきます。江國香織さん独特の、静かで、なんだか今にも泣きだしそうなんだけど、言葉から温かい質感が伝わってくる文体がそれを増幅させる。
形はいびつかもしれない、でも彼らの純粋さと愛情(男女のものではないにしろ)を前にしたら、従来からの「ふつう」に当てはまっていることにどれほどの価値があるんだろう。ーー切なくも温かい物語から、そんなことを感じさせてくれる一冊。





次は、来年、蒼井優さん主演で映画化されるというこちら。

『ここは退屈迎えに来て』も記憶に新しい山内マリコさんは、ジャスコ化(いまではファスト風土化というらしい)した地方都市を舞台にした作品を描くのが上手な作家さん。


物語は2本の柱でできています。
一方は、20代前半の男性二人。アメリカのドキュメンタリーに触発され、閉塞感と何者にもなれない自分への鬱憤をはらすかのように、夜の街でグラフィティもどきを描きなぐってまわるように。そしてこの二人と行動をともにする女性一人。彼女もやるべきことを見出だせず、男性に対しても尊厳を守れない。
他方は、タイトルにもある安曇春子。実家暮らしのニートから脱出したものの、パワハラセクハラなんでもありの小さな会社でこきつかわれ、27歳と当時に肩叩き。なんとなく付き合ってるような関係だったはずの男は音信不通。無限だと思っていた自分の若さがあっという間に消費されてしまったことに気づき「消えてしまいたい」と心から思う。
そして本当にいなくなる。



どちらのエピソードにも、ファスト風土化された地方都市(いわゆる田舎、というより郊外)独特の空気が充満していて、実際のそれを知っているからこそ読んでいるとつらくなりました。

ずっと地元に残って愛着がある者と、一度外に出た者の意識の乖離(都会で挫折して戻ったがゆえの地元へのひねくれた視線が実にリアル)、集合場所といえばショッピングモール、暇潰しのパチンコ、衝動をもて余した若者の惰性のセックス。
女はそこそこで結婚して出産するのが当たり前という空気。
全体を覆うのは息苦しいほどの閉塞感です。

私が何年も前に違和感を覚えた、そしてもうそこには戻らないと決めた、あの閉塞感。


2つのエピソードは意外なところで絡み、ラストはちょっとファンタジック。著者がフェミニスト寄りなのか、そんな色の強い結末です。リアリティーには少々欠ける印象もあるものの、閉塞感をぶちやぶるような爽快感とメッセージ性は十分。
女たちよ、能動的に生きろ!しけた現実に縛られるな!男によって価値を決められるのではなく、自分の価値は自分で決めろ!

著者からの強烈なメッセージ。




……東京にいると、移住ブームだったり地方が新たなビジネスの舞台として注目されたりと、地方都市の魅力や可能性がフィーチャーされているのを見聞きします。しかし、実際に地方の若者がどれだけその希望や未来を肌で感じているかというと、すごく微妙。デジタルディバイドなんて地域間にはほぼ存在しないにもかかわらず。もちろん積極的にIターンUターンする人、意識を高く持ってアグレッシブに生きる若者や、地元になじんで楽しくやっている人も多くいます。でも、その陰で希望を抱けず、そもそも抱こうとも思わず、狭い空のした閉塞感を抱きながら生きてる……そんな若者の割合が意外に高い。その鬱屈したエネルギーを生産的に昇華させてほしいーー私が感じたこの作品のサブメッセージはそれです。


今年から、私は女性向けWebマガジンで記事を書かせていただいていますが、無意識に東京やそれに準ずる都会の女性限定の記事を書いてはいないか?と自省するきっかけになりました。自分がかつて暮らしたような「都会でない」土地に住む女性の心にも届いてほしいなと。 



最後に少し毛色の違うものを。





今年、30代二回目の誕生日を迎えまして。
お肌の曲がり角なんてもう何回曲がったか分かりませんし、曲がったらそこは崖だった、というリアルホラー体験も済ませました。代謝は下がるし、肌のツヤもなんだかなぁ……。
女性はどうしても、「歳を重ねる」ことについてはマイナスイメージと結びつけやすいもので、 巷ではアンチエイジングを謳う商品が並び、美魔女ブームもなんだかんだ批判はありつつも続いています。
でも、私はむやみやたらに若さに拘泥したくはないんですね。ずっと女でいたいけれど、年相応でいい。
たしかにハタチの女の子と比べて肌のハリは比較にもならないし、おっぱいもたるむし、なんか顔にちょこちょこシワも出来てます。 
でも勝負するのはそこじゃないぞ、と。小娘にはわからない人生の機微、円熟味、深み、いろんなものがまた女性の輝きを増す要素になるはず。40歳になったときには、30の頃よりまた女としてパワーアップしたと思いたい。


そんな考え方にしっくりくる美容法がつまっている本です。歳をとることを前向きにとらえて、基本的なケアをきちんとして、アラは適度に隠しながら年々深みとまろみのある女性になりましょ、というスタンス。
著者の神崎さんのセミナーを取材したことがありますが、女性としての自己演出法も異性の心の掴み方も熟知しつつ、中身は誰よりも男前!という芯の通った女性です。そんな彼女らしい一冊。
本の帯にもあるように「年をとるのは怖くない!」
これ全国の女性に呼びかけたいです。 


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こうして振り返ってみると、「生き方」「心」に関係していて、古い価値観や強迫観念から解放されるのがテーマ、というのが共通点でしょうか。
これは、私がこの一年考えてきたこととたしかに一致していて、「こうするのが普通」「かくあるべき」といった(特に女性の)生き方に対する正体不明の強迫観念から解放されたい、という思いが読書にも表れたのかなと感じます。
もちろんモラルや最低限の常識は必要。でも状況が許すなら、本来の自分がのびのびと生きられるように生きればいい。そして自分がそうするなら、他者のそれも尊重する。多様性を受け入れくだらない比較はしない。マウンティング根性なんてごみ箱に捨ててしまえ。そんなことを日々考えた一年だったと思います。


読書を切り口に今年を振り返るっていうのもいいですね。
来年の自分がどんな本を読み、どんなことを感じるのか。解放と模索から一歩前進しているのかーー書店へと足を運ぶ自分の姿を、期待と不安をないまぜにしながら思い浮かべています。