STORYS.JPに朽木誠一郎さんが投稿された、
良心は元カノの声をしていた
を拝読した。

ひきこまれて夢中で読んているうちに、昔、私が初めて「お付き合い」というものをした男の子を思い出した。
もちろん全部じゃない。でも、ちょっとだけ共通する部分があったから。

15歳の頃。
いまとなってはもう何が好きだったのか思い出せないけど、顔が嫌いじゃなくて、共通の話題があって、自分のことを好きと言ってくれて、一緒にいてドキドキできれば、思春期ならではの恋愛への憧れと正体不明の寂しさを持て余していた私には、つき合う理由としては十分だった。

その人は音楽が好きで、作曲してシンセサイザーだかキーボードだかで打ち込んだ曲を聴かせてくれたけど、正直それが上手いのか、よく分からなかった。
でも、一緒にいる時間は楽しくて、学校の帰り道に河原で延々しゃべったり、映画を観たり、カラオケにいったり、いかにも高校生っぽいお付き合いを楽しんでたと思う。あ、クリスマスにはマフラーも編んだっけ。

ちゃんと好きだった。その証拠に、付き合ってることが教師にバレて進路指導室に私だけ呼び出されたとき、
「あなた、これから進路を考えたら大切な3年間でしょう。男女交際してる場合じゃないわよ。どちらか選びなさい」
と言われて、号泣しながらも
「無理です。進路は妥協しません。手は抜きませんから、別れません」
と毅然と答えていた。
(今思えば若い…。そんなの、しおらしくしといてこっそり付き合っとけばいいのに)
多分、付き合い出して3ヶ月くらいの頃。最初はただの「恋愛への憧れ」だったのが、いつの間にか「唯一甘えられる場所」になってたんだと思う。
私は3人兄弟の1番上にうまれて、なんとなくずっと「しっかりしたお姉ちゃん」だった。親に甘えるのがとにかく下手で、友達に甘えるのも下手で、どこかいっつも孤独感を抱えてたから、彼氏という存在が出来て、甘える私を可愛がってくれる人がいる状況が、こんなにも楽なのかと幸せを感じてたのだ。もはや「この人じゃないと」っていう属人的な愛情じゃなくて、「甘える相手」という立ち位置で彼のことを必要としていたんだろう。

私もそんな具合だったが、彼の方はもっとエスカレートしていった。彼はちょっと複雑な家庭に育っていて、母親との関係がこんがらがっていた。隣にいると、「母に愛されたい、でも憎い。強がっていたい」と、小さい男の子と思春期の高校生の思いとが内側で強烈にせめぎ合ってるのがひしひしと伝わってくる。
そして彼は、私に母を求めた。
もはやこれは、彼の責任ではないといまでも思う。そう思ったから、私はできる限り受け止めた。自分自身も甘えたい子供なのに、彼を支えたいと思った。頑張った。二人だけの世界で彼の心を守ろうとした。
でも、やっぱりだんだんと湧き上がってくる違和感は拭えなかった。たかが15,16歳のガールフレンドに母を求められても困る、と私の中の理性が叫びだしたのだ。自分が甘えたいとかもうどうでもいい。

ある日、意を決して言った。「もう別れよう。無理だよ」
そのとき彼が泣きながら言ったセリフはずっと忘れていない。
「由梨ちゃんいなくなったら、俺、ひとりだよ」

猛烈に卑怯だと思った。そんなこと言われたら、去れないじゃないか。

結局去れなかった。もう、愛とか恋とか愛情とかでなく、単なる「情」だ
一度そうなると、それまで目をつぶっていた彼の欠点がものすごく私を苛立たせるようになる。
当時、私達が通っていた高校は地方ではそこそこの進学校だった。当然、進路のことも早くから考える。彼は、何も目標らしきものを口にしなかった。不言実行とか、そんなカッコいいもんじゃない。斜に構えて、逃げてるのだ。そのくせプライドだけは高い。
「勉強しか能がないなんてダサい」
「中途半端な大学にはいきたくない」
「俺は音楽って道もあるし」
100回きいた。


勉強しか能がないなんてダサい!? 勉強してから言ってよ。全然パッとしないくせに。
中途半端な大学はいやだ!? 今のあなたじゃ中途半端なとこにも行けないよ。
音楽の道がある!? それならデモテープ送るなりコンクール出るなり、現実的に動きなよ。いままで一度でも、ちゃんとプロに評価されたことあるの?
本気出して負けるのが怖いから、自分のプライドが傷つくのが怖いから、「本気じゃないし」ってカッコつけて逃げてるだけじゃない。

口を開けば罵倒の言葉が次々飛び出しそうで、いつも聞いてないふりをした。

私が男性に「尊敬できること、その人の道で努力すること、実力とそれに見合ったプライドがきちんとあること」を求めるようになったのは、きっとこの辺りが原体験なんだろう。


結局、彼と最終的にどんな別れ話をしてどうやって別れたか覚えていない。つらすぎて忘却の防衛本能が働いたんだろうか…。
でもなんとなく、最後は泥仕合だった気がする。別れたい女と別れたくない男。どんなにすがられても絶対に去ると決めた女と、すがりまくると決めた男。
無事に別れられても、手紙やらメールやら、下校途中やらで随分うっとおしい思いをした。もう嫌気しかなかった。

そんなすったもんだの末、なんとか日常を取り戻して勉強に部活に忙しく過ごしていたら、なんとなく彼に対する嫌悪感も薄れて「好きでも嫌いでもないどうでもいい人」になっていった。やれやれだ。もう彼は彼で勝手に元気にしててくれればいい、そう思った。
なのに、嫌なニュースほど耳に入るものだ。
私と泥仕合をしてすがりまくっていたあの頃、他の女の子とすでに何かが始まっていたらしい。正直にいって、死ねよと思った。他に女がいるなら私をさっさと解放してくれればよかったのに。
さらにそれではすまない。
担任との進路面接で、「俺も1年本気出せば東大受かりますかねー」といい出したらしい。(もちろん瞬時に否定されたらしいが)
さっきの浮気の話より、さらに死ねよと思った。ふざけるな。努力するという努力を知らないあなたが、「1年本気出せば東大」だと? もはや不遜だ。プライドばっかり高くて、ほんとに何も変わってない。出せるもんなら出してみなよ、本気。そしたら私はあなたを2ミリくらい見直すよ。(当時すでにぼんやりと東大を目標に掲げていた私にとっては、自分の積み上げてる努力を愚弄された気分だった)

この2件で、彼はもはや人生で顔も見たくない人になった。
もちろん、今どこで誰と何をしてるか全く知らないし、興味もない。生死すらどうでもいい。


朽木さんの美しい文章から、比べものにならないほどのダメ男を思い出してしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだが(本当にごめんなさい)、元カノさんがクッションを殴りながらぶつけた言葉は、16歳の私の心の声とあまりに似ていて書かずにはいられなかった。
あのダメ男が朽木さんほどのひとかどの人物になっている可能性は、0ではない。世の中に絶対はない。

でも私は、限りなく0に近いと思っている。