読みました。
電子書籍の感想を書く2行目にこんなことを書くのもどうかと思うのですが、実は私、電子書籍が嫌いです。友達が持ってるものをちょっと触らせてもらったときに、どうにも本を読んでる感じがしなくて、フィルター越しの異世界を覗いているような感覚になるのがイヤでした。本を持った瞬間の重さで分厚さを実感する体験も出来ないし、あるページと別のページを瞬時に読み比べることも出来ないし、読書するときにまでブルーライトを見つめたくないし、とにかくアナログな私にはちょっと馴染まないなぁと。
で、今回チェコ好きさんが本を出されると知って「読みたい!」と思ったものの、「電子書籍か、まじか……。」と一度は諦めたんです。でもamazonで読める目次を眺めてると、もうどうしてもどうしても読みたくなって、電子書籍デビューを決めました。
ただし、「Kindle端末買ってもどうせ今後使わないだろう」ということで、スマホとパソコンに電子書籍用アプリをインストールして。

そんなわけで初の電子書籍だったこちら、とっても読みやすかったです。
チェコ好きさんは日ごろから、ブログで文学や芸術についての文章を書かれていて、それは決していわゆる「超とっつきやすい」分野ではないんですが、ご本人がしっかり噛み砕かれているからなのか、分かりやすいんですよね。
この『旅と日常へつなげる』の中にも、文学作品やその中で展開される学説・哲学が度々登場します。学校で授業が下手な先生が話したら多分居眠りする生徒続出でしょうが、チェコ好きさんの丁寧な解説やたとえ話、親しみやすい語り口のおかげで「ふんふん、なるほど」とガツガツ読めました。

◇パラレルワールドにリアルワールドが侵食される不気味さ

で、また私のカミングアウトをさせていただくと、実は私、インターネットがあんまり好きじゃないんです。

そう言いながらこの文章もネット上にあげているし、SNSはtwitterとfacebookとLINEを使っているし、何よりインターネット上に載る文章を書く仕事をしています。そんな人間が「インターネット好きじゃない」って、ちょっと由々しき事態なのかしらとあまり口に出来なかったのですが、チェコ好きさんがこの本の中で『実は今でも、本音を言うと、「インターネット」が嫌いなんです。』と書かれているのを見て、「いたー!ここにもいたー!」となんだか心強くなり、言ってみることにしました。

とは言っても、インターネットの恩恵を十分にうけていることは自覚していますし、もしインターネットが無かったら仕事も出来ないので、「インターネット無くなってしまえ」と思ってるわけではありません。
ただ、SNSに代表されるインターネットでつながった世界というのが、リアルな世界と同様、もしくはそれ以上のパワーを持ったパラレルワールドのように感じられることがあって、そういうとき、背筋がすっと凍るような感覚に襲われます。パラレルワールドがパラレルワールドであってくれる間はまだよくて、どんどんそっちの世界がリアルの世界を侵食しているような(いま私は物理的にはあり得ないことを言っていますが、人間の感覚の中での比率の問題です)、それが日を追うごとに静かに確実に進行しているような気がします。

実際、3~4年会ってなかった友人と再会したとき、「久しぶりー!もう何年ぶり?でも、Facebookで見てるからちょくちょく会ってるような気がするよ」という会話を私自身もしたことがあります。他愛もない、ほほえましい会話ですし、なかなか会えない友人の顔をネット上ででも見られるのは嬉しいです。
でも、この「気がする」って危険な感覚だと思いませんか。
会ったような「気がする」、実際行ってないけど行ったような「気がする」、実際に見てないけど見たような「気がする」……。便利です、確かに便利なんです。極端な話、1日中家にいて誰とも会わなくても、友達の顔を見た気がする、Twitterを開くことで誰かと会話した気がする、あちこち出かけた気がする。案外それで満足出来るかもしれない。そうすると、実際に「会いたい、話したい、見たい、出かけたい」と思う意欲や渇望感がどんどん減っていくんじゃないかと。
パラレルワールドの中の体験で満足してしまって、リアルな世界での行動意欲が減退するのは、本来リアルでの活動を円滑化・効率化するために存在するツールにリアルが乗っ取られているわけですから、手段の目的化というか、本末転倒です。

こういった日頃の思いがあって、チェコ好きさんが本書で『身体性を取り戻す』と書かれている部分に、深く共感しました。実際に体験すること、深く関与すること、「実感」というものを大切にすること。質感の無いパラレルワールドの住人にならないためには、欠かせないのではないでしょうか。


◇私なりのデジタルデトックス

この本の中で、チェコ好きさんは旅を契機に短期の『SNS断ち』をしています。
先ほども述べたとおり、私はWeb上で文章を書く仕事をしているので、なかなか完全なるデジタルデトックスは出来ません(たまにしたくなります。ディスプレイを見るのもいやで、鉛筆で書いた手書き原稿をFAXで送りたい……と妄想することもしばしば)。SNS断ちだけでも、と思っても、自分の記事の告知をしたい、いま注目されている記事をチェックしたい、とついつい毎日開いてしまう。
ただ、こういう仕事をしているから特に、自分の中でのバランスを意識して調整しないとパラレルワールドに片足つっこみそうになることがしばしばあります。
そういう疑似体験が実体験を駆逐してしまいそうなとき、私はとにかく人に会います。しかも、あんまりSNSを使わない人に。
ありがたいことに私の周りには「プライベートで使うインターネットは、LINEと、食べログと、一休と、路線検索と、amazon。Facebookは使うけど、たまに見るくらいだなぁ。」みたいな人が結構いて、彼・彼女らと一緒に時間を過ごしていると、ゆがんだ骨盤が矯正されていくように、片寄った重心が良い感じに戻っていくのを感じます。会話の内容も、私が仕事の話をすれば多少インターネットの話になりますが、それ以外の話をしていればパラレルワールドでの出来事は登場せず、ひたすらリアルの世界での話で盛り上がる。
この時間がいまの私にとってはデジタルデトックスです。時間にすればたいした長さではありませんが、精神的濃度が密なので、なかなかの効果を感じています。



電子書籍が嫌いだとかいいながら、結局読み終わった満足感はとても高かったです。印刷して綴じておきたいくらい(違法なのかな?)。 インターネット大好きだけどたまに疲れるよ、という人も、 私のようにインターネットあんまり好きじゃない人も、 これから日を追うごとにどんどん生活の中での勢力を増してくるであろうインターネットとの付き合い方の一つの提案として、ぜひオススメしたい1冊です。