春画展に行きたい行きたいと思い続けて3ヶ月、その願望がようやく実現した。

「誰と行くか問題」は、春画展に興味のありそうな友達が見つからず、結局

夫と行く 

という無難な選択肢に落ち着いた。
週末は混雑がひどいと聞いていたので、夫の休暇中の平日にいざ!
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展覧会場の永青文庫に到着し、順路どおり4階スペースに向かうと、

なんじゃこりゃ!?
人がひしめき合っている……!
陳列ガラス沿いに列を作り、その進まなさ加減たるや、牛歩またはディ⚫ニーのアトラクション待ち行列。行列最後尾は部屋からはみ出る。

ちなみにこれ、平日17時の光景である。
一応この17時というのも考えた末の時間で、会社員の方はまだ来られないし、専業主婦の方はご飯を作る時間だし、リタイア済みシニア層はそろそろ帰宅してご飯の時間だし、てかそもそも1日空いてたらわざわざ寒い夕方に来ないだろうし、という読みのもと狙っていったのに、
ゴッホのひまわりでも来ましたか?レベルに混んでいるではないか。
(ちなみに大学生の行動は読めなさすぎるので、未知数のまま予想放棄)

春画、恐るべし。

おとなしくその牛歩行列に加わって鑑賞開始。

序盤は、まだ完全に心通じあっていない男女の探りあいの様子が描かれている。ちゃぶ台の下で足がふれあっていたり、ちょっと着物のなかに手を入れてみたりさりげない感じ。

が、見ている側は牛歩なのにもかかわらずなかなか作品の展開が速く、気がつけばあっという間にどっぷり春画ゾーンスタート。


予想以上に赤裸々な描写である。
モザイクをかけたくなるような所をドーンとクローズアップ、色鮮やかに表現していて、「こ、これは……」と一瞬戸惑う。
保健体育の教科書より生々しい。昔クラスメイトに騙されてブックオフで立読みした東京大学物語より生々しい。

でも何作品も見ていくうちにだんだんと慣れてくるし、絵師や時代ごとの作風の違い、設定やストーリー性に目がいって、あまり気にならなくなった。
絵画としても色彩が美しいものがたくさん。私が特に気に入ったのは、鳥文斎栄之の四季競艷図の中の一作だ。緑色の簾がなんとも情緒がある。


ーーただ、最後までひっかかったこと。

……立派すぎる。
何がとは言わない。
紳士・淑女のみなさまにおかれましてはお察しいただきたい。
だって腕より太い。顔より長い。
いくら遠近法とか無い画法だからと言われても、なんぼなんでもそれは……。
私の記憶の中のサンプル数はそんなに多くもないけど、極端に少なくもない……はず。でもどれだけ脳内画像検索をかけてもidentifyしない。
(あぁこのブログを絶対に親が読みませんように)

これは男の意地なのか?見栄なのか?
いや違う、夢か!
現代の恋愛ゲームの女性キャラが全員巨乳であるように。

まぁ単に春画なのでそこを強調したかった、という意図かもしれないが、なかなかの盛り具合である。対して女性の体はそんな盛られてないのが不思議だ。

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春画というのはポルノなのか、アートなのか」という議論がなされているようだが、今回実際に見て、「どっちでもいい。というか、どちらの要素も兼ね備えている。」と感じた。
今みたいに写真や映像があるわけじゃないので、春画は性教育のツールであり、面白おかしい娯楽読み物でもあり、性への欲求を刺激するものでもあり、芸術性を追求するものでもあったのだろう。

実際、「家庭の医学」的に臓器の説明がされている春画本、
享保の改革で春画が禁止されてからも、貸本屋がこっそり庶民に貸し歩いたというもの、
大名が贈呈用(!)に絵師に描かせた豪華なもの、
記憶があやふやで申し訳ないのだが、何らかの団体が新年の行事で配布したものまであった。

様々な階層の人々が、様々な用途で春画を手にしていたのだ。


もうひとつ印象的だったこと。
展示してOKと判断された作品ばかりだから、かもしれないが、
「性」に対する後ろ暗いイメージをあまり感じさせられなかった。
どちらかというと肯定的で、どこか洒落がきいている。セリフ付きの作品なんかは思わず笑ってしまうようなものが多く、ちょっと意外だった。暴力的描写は一切無い(展示されていないだけでどこかに存在はするのだろうが。)
日本人はあまり性に開放的なイメージは無いけれど、秘め事でありつつもおおらかに肯定すべき事柄として古来から扱われていたんだな~と、これは新鮮な発見だった。


日本史の資料集にもこういうのいっぱい載せればいいのに。
……授業にならないか。

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物販コーナーでは全展示品が掲載された図録が販売されていて、夫は「これすごいよ!4000円の価値あるよ!」と気に入っていたが、うーん、いらん。
一時間近くかけて山ほど見たから、もう、お腹いっぱいだよ……。
ちなみに春画が印刷されたTシャツやらクリアファイルやらエコバッグも売られていて、こんなにもエコバッグという響きが似合わないエコバッグもないというくらい、違和感の塊の逸品だった。

エロバッグの方が実物に忠実だと思う。


総じて見ごたえたっぷりの展覧会だった。  
日本美術が好きで性的描写が苦手でない方は、ぜひ足を運んでみてほしい。